中小企業のデジタル化はなぜ進まないのか

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2022年1月18日の日本経済新聞(電子版)に中小企業のデジタル化に関する記事が載っていました。その記事のタイトルは「テレワークが進まない 中小企業のデジタル化9カ条」。企業のデジタル化は規模が小さくなるほど進んでいないという調査結果を元に、今後中小企業が取り組むべき9か条が記されています。その9か条とは次の通りです(日経新聞から引用)。

  1. テレワーク「三種の神器」導入
  2. 非対面を前提に業務見直し
  3. 事務の自動化で効率アップ
  4. ベテランのリスキリング
  5. 会社のルールも近代化
  6. 心のつながりを強める
  7. 情報保護に全力
  8. 見えない「実態」を可視化
  9. 経営者は今こそDX投資を

三種の神器とは「ノートパソコン」「Wi-Fi」「チャットツール」。大企業に勤めている人なら驚きを隠せない現実でしょう。でも、これが中小企業(299人以下)の現実です。私自身、従業員5,000人以上の大企業に勤めていたので比較することができますが、大企業と中小企業のデジタル化は10年以上の開きがあると感じます。すなわち、大企業で10年前に導入したデジタル化をようやく導入している感覚です。

なぜ、中小企業のデジタル化が進まないのか。大多数の論調は「経営者の意識の低さ」を取り上げますが、私はそれだけではないと考えます。仮に上記9か条を大企業で実現する場合、おそらく担当する部門が異なると思います。もちろん主は情報システム部門になりますが、ベテランのリスキニングであれば人事部門が担い、情報保護であれば法務部門が担うはずです。

要は大企業でさえ部門を分けないと実現できないことを、専門知識の無い中小企業の経営者や従業員が実現できるわけがないのです。中小企業の弱点は大企業でいう間接部門です。中小企業は営業や製造など現場に属してる従業員の割合が圧倒的に高く、人事や経理など間接部門の従業員は極端に少ないのです。実際、私と付き合いのある従業員50人程度のWeb制作会社では間接部門は総務の2名だけ。それ以外は現場です。

ただでさえ人手不足で現場の業務負担が重い中小企業なのに、さらに業務とは直接関係のないデジタル化を担当しろと言われて素直に応じる従業員はいないでしょう。つまり、中小企業は経営者の意識が高くても、従業員の意識が低く実現できていない可能性も十分に考えられます。大企業がデジタル化を推進できるのは「専門部門」と時間的・金銭的な「余裕」があるからです。中小企業はこの2つが決定的に欠けています。

金銭的な問題は国の補助金等支援により解決できますが、本当に有効活用されているのかは少々疑問を感じます。また、専門知識に関しても外部コンサルティング等に依頼できるのですが、継続的に推進するには社内に専任人材を置く必要があるでしょう。ただし、専任人材と言ってもどのような知識を持つ人材を雇えばよいのか、そのノウハウすらないのが実情です。また、多くの中小企業はその人材価値に見合った報酬を払う余裕も無いと考えます。

上記9か条のような提言の多くは中小企業の現場を反映していません。あくまでも理想論であり、現場の実情に合っていません。中小企業には中小企業のデジタル化があり、大企業と同列で考えるべきではありません。中小企業には必要の無いデジタル化もたくさんあります。必要のないものを押し付けているから、一向にデジタル化が進まないと捉えているだけなのかもしれません。

国が中小企業のデジタル化を進めるのであれば、企画段階から中小企業経営者や中小企業で働く現役の従業員をプロジェクトに入れるべきではないでしょうか。

伊藤泰行

京都市在住。 日本ソムリエ協会認定SAKE DIPLOMA(2018年度合格/No.2153)、SAKE検定認定講師。(社)日本ソムリエ協会正会員(No.29546)。大学卒業後は(株)マイナビに入社し約10年間、顧客企業の新卒・中途採用領域における採用ブランディング、クリエイティブディレクションを経験しました。いつまでもお酒が楽しめるように、毎年1回のフルマラソン完走を目標として健康な体づくりに励んでいます。

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