自動車整備士の現状とこれから

今朝、いつも通っているフィットネスジムで定年を迎えたおじさん二人の会話が耳に入ってきました。「最近、よぉーへリ落ちよんな〜」「ヘリも自動車と同じでどんどん高度になっていくから整備する人がついていけなくなってるんちゃう?」「そやな〜、そうじゃなかったら、あんなポキっと折れへんやろ」。この二人の会話を聞きながら僕も考えました。今、自動車にしても家電にしても、どんどん新しい技術が導入されて高度になっているけど、故障したとき修理する人が近所にいるのかな、と。わざわざメーカーに送る手間が増えたり、修理できたとしても高額な修理費を請求されたりするんじゃないかと。

特に自動車はEV化が進み、従来の自動車整備士では対応できなくなっていると聞きます。家電は人命に関わることは滅多にありませんが、自動車は人命に直接関わる乗り物です。その自動車をメンテナンスできる人が減ったらどうなってしまうのか。なんだかすごく気になったので、日本の整備士の現状を調べてみました。

国交省も自動車整備業の衰退は認識している

平成27年6月18日に国土交通省自動車局整備課がリリースした「自動車整備士不足の現状と行政の取り組み」という資料を元にご紹介します。まず、現在の自動車整備業界の現状です。実は自動車整備業は微増しています。これは意外でした。平成25年時点で9.21万工場が稼働し、その市場規模は年間約5.5兆円です。整備工場で働く従業員は約55万人ですが、従業員規模別事業者数を見ると55%の整備工場が従業員10人以下の中小零細企業であることがわかります。

そんな中小零細企業の喫緊の課題が人材不足です。調査によると約5割の整備工場で整備士が不足しているようです。特にここ数年は売り手市場が続き、人材の安定志向が強まっているため中小零細企業の人材採用は困難で、この調査時点よりも人材不足感は強まっているでしょう。

整備工場には大きく2種類あります。整備業を専門とする事業者と、自動車メーカーの販社(ディーラー)です。ディーラーの場合は、整備事業者よりもブランド力があるため人材が集めやすいと考えられますが、調査によると約8割のディーラーで整備士が不足しています。つまり、国内全体で整備士そのものが不足していることがわかります。

整備士の働き方改革が必要

ではなぜ整備士が集まらないのか。理由は3つあります。ひとつは、今まで中高年層の男性に依存しすぎて女性や若者を意識した採用活動を行ってきていないことが挙げられます。つまり事業者が中高年層の男性以外の人材を集めるためのノウハウを持っていないことが原因です。二つ目は、労働環境が過酷であること。不規則で長時間、そして力仕事が多いのが特徴です。わざわざしんどい仕事に就きたい人はいません。そして3つ目は所得水準が低いこと。労働生産性の低さが所得が伸びない理由だと考えられますが、しんどい仕事なのに給与まで低ければ、この仕事に魅力を感じる人材がなかなか見つからないでしょう。

こんな状況に対して整備業界はどんな取り組みをすべきなのか。まず中高年男性だけでなく、女性や若者に振り向いてもらうために労働環境を改善することが必須です。そして、長期的に働く場として魅力が感じられるように、さらに安心して生活が送れるように所得水準を向上させることが必要です。労働環境に改善するには、働き方改革を推進し女性や若者の生活スタイルに合った就業形態を提供することが大切です。昔ながらの就業形態では人材は集まらないでしょう。所得を上げるためには生産性を向上させることが求められます。最低限、導入できるITは取り入れたほうがよいでしょう。

整備士の存在価値を高めるために

整備事業者が人手不足に陥っている原因とそれに対する取り組みをご紹介しました。しかし、ひとつ重要なことが抜けていると思います。それは整備士に対する教育投資です。今までの自動車整備士の中には「自動車が好き」「機械を触るのが好き」という自分の好きを元に整備士の職に就く人が多かったと考えられます。もちろん、この「好き」という思いは仕事に対する原動力になるため大切なのですが、今後の自動車はただ好きなだけでは対応できないほど高度化されていくでしょう。

今後の整備士には従来の機械の知識だけでなく、ITや電池の知識も求められるでしょう。しかし、ひとりの整備士が全ての知識を身につけることには限界があります。だから、これからの整備士はより専門化していると思われます。機械担当、IT担当、電池担当など。まさに医療の世界と同じで、高度になればなるほど専門化させないと対応できなくなっていきます。そしてその専門分野において一人ひとりの整備士に深い知識を習得させる教育が必要になるでしょう。ただし、この高度な教育を各事業者単位で行うことは困難です。だからこそ、国や自治体が専門の教育機関を設けるなりして対応することが必要だと私は考えます。

医師もそれなりに劣悪な労働環境で働いていますが、彼らは高度な専門職であるため世間では相当なステータスを獲得できます(それがなければ辞める医師も多いと思う)。整備士も医師と同様に、自動車ドクターとして高度人材になれば、従来とは異なるステータスが得られると思います。そうなれば、それを目指す人材が増えていくでしょう。これから自動車がどれだけ高度になったとしても安心して利用するためにはメンテナンスが必要です。それを担う整備士が今後増えていくように国の施策を期待したいと思います。

 (参考資料)国土交通省『自動車整備士不足の現状と行政の取り組み』

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