私がWEB業界に入ったのは約4年前。この業界に入って、まず最初に違和感を感じたのは受発注に関わる約束がほぼ口約束だったことです。受注に関してはクライアントから発注書を発行してもらうわけでもなく、受注内容に関してもミーティングやメールのやりとりをベースにしていることがほとんど。機密保持契約書に関してもクライアントが作成したものを、法律の知識がない社内スタッフが適当に目を通すだけ。
最初は「WEB業界はこういう文化なのか」と思いましたが、そうではなく、ただ「何をしたらよいのかわかっていないだけ」だったようです。そこで今回はWEB業界で働く人たちに向けて、受注契約に関するチェックポイントをご紹介します。内容は『Web業界受注契約の教科書』(著・高本徹/藤井総)という本をベースにしていますので、詳細はこちらの本をご購入ください。ケーススタディが具体的なのでこの業界にいる人であればすぐに活用できる良書です。
こんなこと経験ありませんか?
広告代理店と一緒に企画から提案に関わったが、制作段階になって急に「制作会社を変える」と言い出した。
制作段階に入ってから想定していなかった修正や追加作業が後付され、しかもそれに対する費用が支払われない。
納品後かなり期間が経ってから不具合対応を迫られ、しかもその作業に対する費用が支払われない。
納品後に請求額の減額をしつこく交渉された。
「他社が作成したデータからサイトを作成してほしい」と言われた。
レンタルサーバの障害で、紹介したWeb制作会社の対応責任を問われた。
8つの契約トラブル
上記のトラブル内容を見て「あー、よくあるわー」って思うWEB制作会社の人、結構多いのではないでしょうか?このような契約上のトラブルは主に8つに分類することができます。
- 契約成立・作業開始時のトラブル
- 作業内容変更・業務外作業のトラブル
- 検査・瑕疵のトラブル
- 代金のトラブル
- 著作権のトラブル
- 秘密保持のトラブル
- 契約解消のトラブル
- 契約外のトラブル
Web制作会社によって、トラブルが多い分野があると思います。まずはそこをしっかりと把握しましょう。その上で、具体的な対応策を考えていく必要があります。
押さえておきたいポイント
本書を読んで、私自身が重要だと感じたポイントをピックアップしました。
- 大企業から提示される契約書には要注意。大企業には法律の知識を持った法務スタッフや弁護士が在籍していて、必ず自社に有利になるような契約書を作ります(ま、それは当たり前のことですが)。この場合、安易に契約書に判を押すのではなく、できれば法律の知識を持った関係者にチェックしてもらうことをおすすめします。
- Web制作などの開発契約は、基本的に「請負」という種類の契約です。この場合、「仕事の完成」に対して代金を支払う契約であると法律で決まっています。そのため、制作途中で想定以上の工数が増えようと減ろうと、仕様に変更がなければ代金も増減しません。だから曖昧な仕様で開発をスタートさせないことが大切です。納期が迫っている場合でも、後々のことを考えるとまず仕様を決めることと、敢えて決まっていない仕様を文章にしておくことも大切。
- 受注者(Web制作会社)が負うべき責任は2つ。ひとつは「債務履行責任」、ふたつめは「瑕疵担保責任」。債務履行は契約時に決めた仕様・内容で納品したかどうか。決められた内容で納品出来ない場合は債務不履行責任が問われます。瑕疵担保は納品後(公開後)に負う責任で、納品後に発覚した仕様上の瑕疵を修正する義務があります。ここで大事なのは「何をもって債務を履行したというのか」「何をもって瑕疵を担保したというのか」という責任範囲。
Web制作会社の経営者やWebディレクターの意識を高める
請負契約でビジネスをしているWeb制作会社にとって、契約に疎いことは命取りになりかねません。「無知は損」といいますが、発注者はWeb制作会社の無知を逆手にとって、自分たちに有利な契約を結ぼうとします。ただ、これは決して発注者に悪意があるわけではなく、契約とはそもそもそういうものです。ですので、Web制作会社が発注者と契約する場合も、自社に有利な契約内容に書き換える必要があります。それをしないで安易に判を押してしまうのは、ただ単にWeb制作会社の認識が甘い、と思われても仕方がありません。
現場のWebデザイナーやプログラマにこの認識を持ってもらうのは難しいと思いますので、まずは経営者やWebディレクターなど直接発注者と関わる人たちの意識を高めることが大切ではないでしょうか。
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